『「自分がない人」にカウンセリングが向いている理由(2)』ロングインタビュー

カウンセリングを受ける前に、カウンセリングについて勉強しておくと、いま何が起こっているのかがわかりますね。

私の著書に『カール・ロジャーズ入門 自分が“自分”になるということ』という本があります。それを読めば、今経験していることはこういうことなんだとわかると思います。
「今、自分の期待に応えてくれない人間関係を経験しているんだな。期待に応えずとも受け入れる人間関係を経験しているんだな」と理解できます。勉強しておくと良いと思います。

カール・ロジャーズについて少し教えていただけますか。

カウンセリングの神様とさえたたえられる、アメリカの臨床心理学者カール・ロジャーズの人生は、「自分探し」の人生でした。
ロジャーズが育てられた家族は、キリスト教ファンダメンタリズムの厳格なルールと信念システムに縛られたガチガチの家族でした。それは、デートはおろかカード遊びさえ許されないばかりか、感情を表に出すことさえよしとされない「抑圧家族」。いわゆる機能不全家族でした。そのためロジャーズは「楽しむことが下手」「自分の感情、特に怒りを表現することができない」「他の人との親密な関係をつくるのが不得手」といった、さまざまな硬さやとらわれ、不自由さを抱えて生きざるを得なくなりました。
その華々しい職業生活とは裏腹に、個人的にはかなり苦渋に満ちていた人生でした。それは、自分らしくあることを許されずに幼少期を過ごした彼が、まさに血みどろで、“自分”らしさを取り戻していく苦しい闘いのプロセスでした。そしてこのような、“自分”を求めていく彼自身の闘いの中で、ロジャーズは同じような問題に苦しむ他の人々を支えるカウンセリングという新たな分野を開拓していったのです。

「自分がない」の反対、「自分らしい」とはどんな状態でしょうか。

カール・ロジャーズの考える「自分らしい生き方」を紹介します。

 1、偽りの仮面を脱いで、もっとあるがままの自分になっていく
 2、「こうするべき」とか「こうあるべき」といった「べき」から自由になっていく
 3、ひたすら、他の人の期待を満たし続けていくのをやめる
 4、他の人を喜ばすために、自分を型にはめるのをやめる
 5、自分で自分の進む方向を決めるようになっていく
 6、結果ではなく、プロセスそのものを生きるようになる
 7、変化にともなる複雑さを生きるようになっていく
 8、自分自身の経験に開かれ、自分が今、何を感じているかに気付くようになっていく
 9、自分のことをもっと信頼するようになっていく
10、他の人をもっと受け入れるようになっていく

より自分らしい、あるがままの自分になる人はこうした方向に向かっていく、とロジャーズはいいます。そのとき人は、他者からの期待や、「こうあるべき」という思い込み、そして仮面をつけていた「偽りの自分」から離れていき、その時々の自分の気持ちに従いながら、そのプロセスを生きるようになっていく、というわけです。

「自分の経験を信じること」平たく言えば、自分自身を信頼し、みずからの内なる感情、内なる声に耳を傾けて、それに忠実に生きていくということです。

つまり自分にとって「これが正しいという実感」が「自分らしい人生」の何よりも重要な行動の指針になっていくのです。

「これが正しいという実感」こそ、「自分がない」人が感じたいものですね。「自分らしい人生」を生きることを、応援できるカウンセラーでありたいと思いました。

諸富先生ありがとうございました!

諸富祥彦
1963年福岡県生まれ。
1986年筑波大学人間学類、1992年同大学院博士課程修了。英国イーストアングリア大学、米国トランスパーソナル心理学研究所客員研究員、千葉大学教育学部講師、助教授(11年)を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。
世界を変えるため、時代の精神(ニヒリズム)と「格闘する思想家・心理療法家」(心理カウンセラー)。
日本トランスパーソナル学会会長、日本カウンセリング学会認定カウンセラー会理事、日本生徒指導学会理事。
教師を支える会代表、現場教師の作戦参謀。
臨床心理士、上級教育カウンセラー、学会認定カウンセラーなどの資格を持つ。

参考・引用文献
「「自分がない大人」にさせないための子育て」P3.18-22.154-172(PHP研究所)
「カール・ロジャーズ入門 自分が“自分”になるということ」P22.143.146.148(コスモスライブラリー)
近著
「「本当の大人」になるための心理学 心理療法家が説く心の成熟」(集英社新書)
「孤独の達人 自己を深める心理学」(PHP新書)など200冊以上。
諸冨先生のワークショップ情報等はhttps://morotomi.net/