『「自分がない大人」にさせないための子育て(1)』ロングインタビュー

諸富祥彦教授

心理学者
諸富祥彦 教授
YOSHIHIKO MOROTOMI


「自分がない」人というのは、どんな人でしょうか?


これまでカウンセラーとして、多くの悩みを聞いてきました。そのカウンセリングの中で出てくる言葉の一つが「自分がない」という言葉です。
「先生、私には自分がないような気がするんです。なんだか自分の軸が定まっていないというか。自分がどう生きればいいのか、どうしたいのか、本当のところでは、そこが分かっていないんだと思います。だからいつまで経っても、これが自分の仕事だと思えるような天職に巡り合えない。これが私の運命の人だと思う人とも巡り合えないんだと思います。」
自分がない。自分がよく見えない。自分が、本当のところではどうしたいのかわらかない。

自分がないって苦しいですよね。私は友人とレストランへ行っても、人が注文するのを見て、同じものを頼んでいました。そもそも自分が何を食べたいか、わからなくなっていたのです。

絶えず親の意見に従って、親を喜ばせる事ばかりに熱心になってきたいい子は、大人になっても自分を持たない人になってしまいます。その結果、そもそも自分は何を食べたいのかわからなくなってしまう。しかも事は人生全体に及びます。どの仕事を選べば親は喜んでくれるかな、という基準で選んでしまうのです。

恋愛中もそのような傾向が出やすいと感じます。彼が行きたいところに行けばいい、彼が食べたいものを食べればいい。そして、彼が喜びそうな事を言う。自分の気持ち、したいことは、どちらでも良くなってしまう。

自分がない人は、人に決めてもらい、楽をしていると思う方もいるかもしれません。けれど、実はとても疲れます。頭の中では一生懸命考えているからです。
そんな時に、「あなたの好きなものでいいわ」と素直に言えるようならまだいい。でも、いつも「あなたの好きなものでいいわ」と言っていると、つまらない奴だなって思われてしまいます。