『「自分がない大人」にさせないための子育て(2)』ロングインタビュー

なぜ「自分がない」人に、なっていくのでしょうか?

原因は、いくつか考えられると思います。

まず、子供の生きるエネルギーが小さくなってきている気がします。エネルギーそのものが小さい。これが欲しいとか、あれがしたいとか、そういうものがなくなっています。

では、何故エネルギーがなくなっているのか?
諸説あります。なぜ結婚しない人が増えているんですか?とか、なぜ少子化になっているんですか?という問いと近いと思います。色々な角度から考えられます。

1つ目は、生物学的な原因が考えられます。
昔に比べ、男性の精子の数が減ってきています。生物としての人間が、変容し始めていると考えられます。

2つ目は、社会文化的な原因が考えられます。
抑圧的な文化ではなくなってきました。
昔は何でも抑圧されたものです。しかし、生きるエネルギーというのは、抑圧されることで大きくなっていきます。
プロセス思考心理学に「Amplify(増幅)」という技法があります。
これは、二人一組になって、一方が相手の片方の腕を、強い力で抑えこもうとします。抑え込まれた相手は、「嫌だ!」と反発して押し返していくというものです。抑え込もうとする力が大きいほど、反発する力が大きくなります。
これと同じように子供は、抑え込まれれば抑え込まれるほど、反発する気持ちが大きくなります。心的エネルギーが大きくなるのです。

3つ目は、社会文化的な原因の一部として考えられますが、子育て要因です。
多くの親はとても優しいです。だから反発心がもてません。
昔の抑え込む親に対して、今の親は、何でも「いいよ、いいよ」と受け止めてくれます。認めてくれます。そして周囲も優しくなっています。頑固おやじや、肝っ玉母ちゃんがいません。優しいお父さんお母さんが増えています。抑え込まれない。するとそれに対して反発する気持ち、私はこうしたいんだ!という気持ちを持つ必要がなくなってしまうのです。

4つ目は、優しいけれど求めてくる、ということです。
反発心がなくなっているところに、「あなたは自由でいいんだよ。でもこうしてほしいなあ。」と求めてくる。期待はしてくる。そんな親の気持ちに、子供は答えようとします。

3つ目と4つ目が相絡まって、いい子のアダルトチルドレンが育っています。
それは、昔のアダルトチルドレンとは少し違います。昔は親が上から「俺の言うことを聞け!」と言ってくる、だから「そうはいってもお父さん!」と反発する、わかりやすい機能不全家族でした。今は昔と違い「いいんだよ」と受け入れつつ、さりげなく抑え込んでくる。真綿にくるまれるようにしてしめつけられ、親の期待を押し付けてくる、わかりにくい機能不全家族です。

確かに、アダルトチルドレンは機能不全家族に育てられたといいますが、最近は、私は親に優しく愛されて育てられましたがアダルトチルドレンです、という方が多いと感じています。親が、愛情を注ぐことと、過保護や過干渉を、取り違えているように感じます。

大学を選んだり、就活や婚活をしたりする場面でも、親御さんが口をはさむケースが増えています。大学選びでは、ほぼ親が中心になって決めているようなケースも多々あります。就職活動も同様です。子供に任せておいたらろくな企業にいかないだろうということで、「本当にその会社大丈夫なの?どんな会社なの?」と、もうほとんど親御さんが就活の中心であるかのような役割を果たしています。婚活では、さらにその傾向は強くなります。

その結果、自分の欲求は、ずっと放置されてしまうわけです。自分の内側にある欲求そのものは放置されてしまい、周囲の期待に応えるという志向性ばかり強くなってしまうのです。

そして結婚して出産して、今度は「自分がない親」になってしまう。