『「自分がない人」にカウンセリングが向いている理由(1)』ロングインタビュー

諸富祥彦教授

心理学者
諸富祥彦 教授
YOSHIHIKO MOROTOMI


「自分がない」人が変化していく上で、必要なことはどんなことでしょうか?


人は、他者との関係の中ではじめて“自分自身”になることができるのです。
「自分を受け入れ、自分にやさしく耳を傾けるとき、人は真に“自分自身”になることができる」のです。
人が自分を受け入れ、自分の心の声に耳を傾けて、真に“自分自身”になっていくことは、他の誰かから無条件に受け入れてもらうような共感関係において、初めて可能になると考えるところにあります。
他者に受容され共感される関係こそ、人が真に“自分自身”に成る上で最も必要なものと考えられています。

自分の気持ちを本当にわかってもらえているという実感の中で、アダルトチルドレンから抜け出すことができるのです。
カウンセラーはあなたがどんな状態でいようと、そのままのあなたを受け止め、受け入れてくれます。
例えば「私はダメな人間なんです」「私なんて何も価値がないんです」と言っても、そのままのあなたを受け入れてくれます。そんな関係を提供してくれます。その関係性の中で、徐々に変化してくのです。
「人の期待に応えないと価値がない人間だと思っていたけれど、そうじゃなくても、私は価値がある人間だ」と思えるようになっていくのです。

「自分がない」人は、カウンセラーの期待に応えようとするかもしれません。けれども、安易に褒めてはくれません。カウンセラーが褒めてしまうと、今度はカウンセラーの期待に応えようとしてしまうからです。なので、褒めたりはしません。褒めも叱りもしない。肯定も否定もしない。同意も拒否もしない。ただ、全てそのままを「受けとめる」のです。
何を言っても受け止めてもらえる経験をしていくうちに、人の期待に応えることから離れていけるのです。このような人間関係を、おそらく生まれて初めて体験できます。しかも、瞬間ではなく持続的にです。週に一回50分、毎週毎週通うことで、嫌でもじわじわと実感できるようになっていきます。

「自分がない」方はカウンセリングでも「どうしたらいいでしょうか?」「とにかく解決したいのです」とアドバイスを求める傾向があると感じます。

「話を聴いてくれるだけで、アドバイスしてくれないからカウンセリングをやめたいと思う」
これは、「自分がない」人、アダルトチルドレンの方によくみられる反応です。アドバイスがなくて物足りないと思っていることを、カウンセラーと話し合うと良いでしょう。

カウンセラーに「どうしたらいいでしょうか?」と聞いても、答えてくれないことが殆どでしょう。それでは、今まで経験してきた日常の人間関係(友だちや同僚との関係)と、同じものになってしまうからです。それを避けるためにカウンセラーは、あえてのらりくらりと、質問に答えません。期待に応えません。こうしなさいと言ってほしいクライアントさんにとっては、苦しいと思いますが、実はカウンセラーも苦しいものです。
けれどそこで、カウンセラーは「相手の期待に応えなくてもよい人間関係」を、提供しているのです。
答えを求めるなら、ヤフー知恵袋で十分でしょう。無料ですし。(笑)
ヤフー知恵袋では物足りなくて、カウンセリングを受けるということは、単に答えが欲しいのではないのでしょう。
ネットで手に入る知識を越えたところの葛藤を取り扱うのがカウンセリングなのです。

カウンセリングに慣れることも必要ですね。

カウンセリングをやめたくなることがあると思いますが、続けると良いです。月に一度でも、続けた方が良いでしょう。
従来の人間関係のように、自分に何かを求めてくる人間関係ではないため、物足りなく感じられることもあるかもしれません。
「こうしなさい、ああしなさい、これができないなんてダメな子ね」と言われ続けてきた方は、そうやって指摘された方がずっと楽で安心できます。だから物足りなく感じるのです。ここは、クライアントさんは我慢のしどきです。逆説的に、もしもカウンセラーに物足りなさを感じたなら、そのカウンセラーは見どころがあると言えます。どうぞ続けてみてください。